ケース0320代・入社2年目:仕事は覚えたのに、なぜ「5年後の自分」が描けないのか

※冒頭のエピソードは、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空の人物・会社の話です。実在の企業や個人をモデルにしたものではありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。
※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。
入社2年目の春

佐藤さん(仮名・20歳)は、高校を出て、従業員30人ほどの金属加工の会社に入りました。2年目に入り、段取りも一人でこなせるようになってきました。社長からは「若いのが入ってくれて助かるよ」と声をかけられます。
ただ、職場の先輩は40代・50代が中心で、同期はいません。この仕事を続けた先にどんな役割が待っているのか、話を聞く機会もありません。高校の友人が転職したと聞いて、自分もこのままでいいのか、と考える時間が増えていきます。
ある日の帰り道、佐藤さんはふと思います。「仕事は覚えた。でも、この先どこに向かえばいいのかは、誰も教えてくれないんだよな。」
調べてみると:「道筋」を示す道具は、すでにある

若手が先を描けないのは、本人の意欲だけの問題ではない可能性があります。どんな力を身につければ、次にどんな仕事を任されるのか。その道筋が見えにくいことも、一因と考えられます。
道筋を示すための公的な道具は、すでに用意されています。厚生労働省は、仕事に必要な知識や技能、成果につながる行動の例を業種別・職種別に整理した「職業能力評価基準」を公開しています。キャリアの道筋を示す「キャリアマップ」と組み合わせて使えるとしています。
また、国家検定の「技能検定」は、機械加工など全133職種で行われ、合格すると「技能士」と名乗ることができます。腕前を外から見える形にする仕組みの一つです。
一方で、こうした道具が職場に届いているとは限りません。厚生労働省の調査で、正社員にキャリアコンサルティング(キャリアの相談)を行うしくみがある事業所は、製造業で40.1%でした。規模別では、1,000人以上の72.6%に対し、30〜49人では34.3%です。道具はあっても、小規模な事業所ほど届きにくい傾向がうかがえます。
データ:小規模な事業所ほど、若手の離職率は高い傾向

厚生労働省によると、令和5年3月に高校を卒業して就職した人のうち、3年以内に辞めた人は36.9%でした。事業所の規模別にみると、5〜29人では53.3%、30〜99人では45.5%です。1,000人以上の24.4%と比べて、高い水準にあります。
なお、産業別にみると製造業は27.0%で、全体より低い水準です。業種そのものよりも、職場の規模による差が大きいと考えられます。
若手本人の意識も見てみます。別の調査では、若年正社員のうち「転職したいと思っている」人は31.2%で、20〜24歳では35.0%と最も高くなっています。初めて勤めた会社を辞めた理由では、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」(28.5%)、「人間関係がよくなかった」(26.4%)などに続き、「仕事が自分に合わない」が21.7%、「会社に将来性がない」が11.5%でした。

「合わない」と感じる前に、この先に何があるかを知る機会があったかどうか。そこに、ものづくり中小企業で手を打てる余地がある可能性があります。
で、どうしたらいいのか

若手が先を描けないのは、本人の意欲よりも、この先を見せる仕組みがないことに一因があると考えられます。ものづくり中小企業で打てる手として、次の3つが考えられます。
① 期待を言葉で伝える

「助かるよ」は、若手にとってうれしい言葉です。ただ、自分が何を期待されているのかまでは伝わりにくい面があります。
- 次に任せたい作業や機械を伝える
- 1年後にできるようになっていてほしいことを伝える
- できるようになったことを、その場で言葉にする
② 将来を話す場をつくる

日々の作業の会話だけでは、先の話は出にくい傾向にあります。
- 年に1〜2回、30分ほど「1年後・5年後」の話をする
- 社長だけでなく、少し先を行く先輩の話を聞く機会をつくる
- 社内で話しにくければ、外部の相談相手を入れる
③ 道筋を一枚にする

「どこまでできれば、どんな仕事を任されるか」を、段階にして示す方法があります。一からつくらなくても、職業能力評価基準を下敷きにできます。技能検定の合格を、段階の目安に組み込むことも考えられます。
まずは①から
3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。社長の一言から始められる①は、比較的手軽に始めやすい一歩です。
小規模な事業所では、同期や年の近い先輩が少なく、数年先の自分の姿を身近に見る機会が限られる場合があります。だからこそ、会社の側から「この先」を見せることが、定着の手がかりになると考えられます。
ハーマスの考え方とご提案

合同会社ハーマスでは、若手が先を描けない状態を、本人の意欲だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どんな道筋がよいかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と若手の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。
このケースのような場合、たとえば次のようなご提案をしています。
- 国家資格キャリアコンサルタントとして、社外の立場から若手の面談を行い、本人の了解を得たうえで、考えを社長に伝わる形にまとめる
- 公的な基準を下敷きに、自社の「できること」の段階表を一緒につくる
- 社長が若手に伝えたい期待を、短い言葉に整理する
絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。
ものづくり人事ラボでは、こうした「よくある悩み」を、年代や立場を変えて取り上げていきます。