バトンを渡す社長と読む製造業のこれから④家まで担保に入れた?借金と保証で会社を守った時代

※この連載は、「後継ぎ専務と読む製造業のこれから」と同じ出来事を、川口の金属加工会社の社長で、専務・宮田健太さんの父である正一さんの側から見直すものです。正一さんの言葉の背景にある時代の価値観を、昔と今のデータで読み解きます。登場人物と会社は、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空のもので、実在の企業や個人とは関係ありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。
※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。
食卓に置かれた1枚のチラシ

ハローワークの求人に、3か月ぶりに応募があった週の夜のことです。息子で専務の健太さん(仮名・34歳)が、省力化の補助金のチラシを食卓に置きました。
「親父、機械を入れよう。補助金で半分は出る。人が来ないなら、人にしかできない仕事に人を回すしかない」
「借金してまで買う機械か。今の機械はまだ動く。俺はな、家まで担保に入れてこの会社を守ってきたんだ」
妻は黙って、二人の湯のみにお茶を注ぎ足しました。
その夜、正一さん(仮名・72歳)はなかなか寝つけませんでした。思い出すのは、社長を継いでまもないころ、銀行の応接室で保証の書類に判を押した日のことです。会社の借入には、社長個人の保証をつけるのが当たり前でした。自宅も担保に入りました。帰り道、妻に「何かあったら、この家もなくなる」と打ち明けたのを覚えています。
それから何年もかけて、借入は少しずつ返してきました。今の工場にある古い機械は、そのとき借りたお金で買ったものです。
「また借りれば、次は健太の名前で保証をすることになる」
補助金で半分出ると言われても、残りの半分は借りることになります。正一さんが怖かったのは、機械の値段ではありませんでした。
正一さんは思います。「あの判の重さを、あいつにまで背負わせたくない。だが、このまま古い機械で戦わせるのも、背負わせることになるのか。」
あの頃は:社長の個人保証が当たり前だった

正一さんが「借金」をこれほど重く受け止める背景を、データで見てみます。
中小企業庁の研究会が2013年にまとめた報告書は、「個人保証は、中小企業金融における融資慣行として定着している」と書いています。同じ報告書が引く2012年度の調査では、経営者の86.7%が、借り入れの際に個人保証をしていました。
同じ報告書は、個人保証への依存が、創業や成長、円滑な事業承継などに向けた取組意欲を「阻害しているおそれがある」とも指摘しています。
会社の借金は、そのまま社長個人と家族の暮らしにつながっていました。正一さんにとって「借りる」とは、会社の判断であると同時に、家族の暮らしを賭ける判断だったと考えられます。
今は:保証に頼らない道もある

その後、状況は変わり始めます。2013年12月、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を公表し、2014年2月に適用が始まりました。
金融庁の公表資料によると、民間金融機関の新規融資の件数のうち、経営者保証に依存しない融資の割合は、2025年4〜9月で55.8%になっています。新しい融資の件数の半分以上が、社長の保証に頼らずに行われていることになります。
設備への支援もあります。「後継ぎ専務と読む製造業のこれから」第4回で健太さんが調べたように、中小企業省力化投資補助金の補助率は原則1/2です。「家を担保に」だけが、会社を守る方法ではなくなってきています。

健太さんが読んで分かること

健太さんから見れば、補助金で半分出るのに機械を入れないのは、借金を怖がりすぎているように見えたかもしれません。けれど、正一さんにとっての借金は、自分の名前で保証し、家まで担保に入れて背負うものでした。
正一さんの「借金してまで買う機械か」は、機械を拒む言葉である以上に、同じ重さを息子に背負わせたくないという言葉でもあると考えられます。そう分かると、「補助金が出るから大丈夫」と押すのではなく、「保証のことも含めて、一緒に銀行に相談しよう」と言えるようになります。
専務シリーズ第4回の「機械と人を組み替える」は、正一さんが守ってきたものを壊す話ではなく、その重さを親子で分け合う話だと言えます。
で、どうしたらいいのか

借金と保証を背負って会社を守ってきた経験は、正一さんにしか語れない重みがあります。ただ、その重さを一人で抱えたままでは、息子には引き継げません。大切なのは、借金と保証の今を見える形にして、親子で判断を分け合うことです。社長の立場から打てる手として、次の3つが考えられます。
① 借入と保証を書き出す

借金の怖さは、中身が見えないと大きくなります。どの借入に、誰の保証やどんな担保が付いているのか。まずは今の状態を書き出し、息子と共有することが考えられます。
- 借入ごとに、残高と返済が終わる時期を書き出す
- 社長個人の保証や、自宅・土地の担保が付いているかを確かめる
- 書き出したものを、息子と一緒に見る
② 銀行に相談する

経営者保証に関するガイドラインができてから、保証の扱いを取引銀行に相談できるようになっています。外せるかどうかは会社の状況によりますが、まずは相談してみることが考えられます。
- 取引銀行に、保証の見直しについて相談したいと伝える
- 決算書や事業の計画をそろえて、会社の今を説明する
- 息子を同席させ、返済や保証の話を一緒に聞く
③ 投資を一緒に決める

機械を入れるかどうかを、社長一人で決めなくてもよいと考えられます。何に投資し、いくら借りて、どう返すのか。その判断を息子と一緒に下すことが、将来の重さを分け合うことにもなります。
- 繰り返しの作業のうち、機械に任せられるものを息子と洗い出す
- 補助金と組み合わせて、借りる額をできるだけ小さくする
- 返済の計画まで、息子と二人で決める
まずは①から
3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。借入と保証を書き出す①は、今日から一人でも始められます。見えれば、不安の大きさも測れるようになります。
重さは、見える形にすれば分け合えます。次回は最終回として、「好きにやれ」と言った翌朝の正一さんの側から、息子が継ぐのが当たり前だった時代と、バトンの渡し方を見ていきます。
ハーマスの考え方とご提案

合同会社ハーマスでは、設備と人の組み替えを、社長の覚悟だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。何に投資し、人に何を任せるかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と後継ぎ、現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。
このテーマでは、たとえば次のようなご提案をしています。
- 省力化のあとの人の役割と育成を、社長と後継ぎと一緒に考える
- 投資の判断に使う社内のデータを、一緒に整える
- 社長と後継ぎが借入や投資を話し合う場の進行を担う
絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。
この連載では、「後継ぎ専務と読む製造業のこれから」と同じ出来事を、社長の正一さんの側から全5回で見直していきます。
出典
- 中小企業庁「中小企業における個人保証等の在り方研究会報告書」(2013年、p.1・p.2。個人保証の提供割合は平成24年度の委託調査による)
- 中小企業庁「経営者保証」(経営者保証に関するガイドライン:平成25年12月5日公表、平成26年2月1日適用開始)
- 金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績」(新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合、2025年4月~9月)
- 中小企業庁「ミラサポplus」中小企業省力化投資補助金の解説
- 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
※個人保証の86.7%は経営者の割合、55.8%は新規融資の件数の割合で、数え方が違います。保証や借入の具体的な扱いは、取引金融機関や専門家にご相談ください。