後継ぎ専務と読む製造業のこれから①海外に仕事を持っていかれる?世界の中の日本の製造業

※この連載は、川口の金属加工会社を継ぐ予定の専務・宮田健太さんと、社長で父の正一さんを軸に、世界から地域まで製造業のこれからを全5回で考えるものです。登場人物と会社は、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空のもので、実在の企業や個人とは関係ありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。
※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。
取引先からの帰り道

宮田健太さん(仮名・34歳)は、川口で従業員40人ほどの金属加工会社を営む父・正一さん(仮名・72歳)のもとで、専務を務めています。いずれは会社を継ぐつもりです。
ある日、先代から付き合いのある取引先を、父と二人で訪ねました。打ち合わせの最後に、購買の担当者がさらりと言いました。「来期から、一部は海外での調達も検討していまして」
帰りの車の中で、健太さんは切り出しました。
「親父、このままじゃ仕事、本当に持っていかれるぞ」
「あんなもんで精度が出るか。うちの仕事を見てから言え」
「見てるよ。見てるから言ってるんだよ」
そのあとは、会社に着くまで、どちらも口を開きませんでした。その夜の夕食でも話は蒸し返され、経理を担う母が「ごはんのときくらい、やめたら?」と割って入りました。
布団に入って、健太さんは思います。「親父の言うことも分かる。でも、このままでいいわけがない。何から考えればいいんだろう。」
調べてみると:世界のなかで、日本の製造業は伸びなかった

経済産業省の「通商白書2025」は、OECDのデータをもとに、各国の製造業が生み出した付加価値(ドル換算)が1995年から2020年までにどれだけ伸びたかを示しています。中国は18.5倍、韓国は2.8倍、米国は1.8倍、ドイツは1.4倍です。そのなかで日本は0.8倍と、1倍を下回っています。
「通商白書2026」によると、世界全体の製造業の付加価値は、2022年には2000年の約2.7倍になりました。中国が世界に占める割合は、2000年の約6%から2022年には約29%と、世界の約3割を占めるまでになっています。
こうして並べると、健太さんの「仕事を持っていかれる」という焦りには、一定の根拠があるように見えます。
ただし、これはドル換算の数字です。円安が進むと、日本の数字はドルで見ると小さくなります。日本の製造業そのものが縮んだのかどうかは、円でも確かめる必要があります。
データ:円で見ると「縮んだ」のではなく「伸びなかった」

内閣府の国民経済計算で、日本の製造業を円で見てみます。2024年の製造業の付加価値は約119兆円で、国内総生産(GDP)の19.0%にあたります。製造業がGDPに占める割合は、2005年が21.1%で、それからの20年間、おおむね2割前後で推移しています。
日本の製造業は、国内では今も経済の約2割を担う大きさを保っています。ただ、その間に世界の製造業は大きく伸びました。つまり、日本の製造業は縮んだというより、世界が大きく伸びるなかで、大きくは伸びなかったと言えそうです。
経済産業省「2025年版ものづくり白書」の概要でも、製造業は「我が国GDPの約2割を占める」とされています。正一さんの「品質で選ばれてきた」という自負も、日本の経済を今も支えているという意味では、当たっています。
同じ白書は、事業環境に影響する変化として、多くの事業者が「原材料価格(資源価格)の高騰」「エネルギー価格の高騰」「労働力不足」を挙げたとしています。そのなかで、直近3年間に取った行動として「価格転嫁」を挙げた事業者は、約9割にのぼります。
伸び悩んでいるあいだに、世界は大きくなり、材料もエネルギーも高くなり、人は足りなくなった。父の言い分も、息子の焦りも、どちらも数字の上では正しいと考えられます。
で、どうしたらいいのか

世界と量で競うことは、中小企業一社では難しいと考えられます。大切なのは、「量で戦う」から「何で選ばれるか」へ、問いを変えることです。後継ぎの立場から打てる手として、次の3つが考えられます。
① 選ばれる理由を確かめる

正一さんの言う「品質」は、取引先から見ると、精度なのか、納期なのか、急な相談への対応なのか、中身が違うかもしれません。思い込みではなく、相手の言葉で確かめることが考えられます。
- 主な取引先3社に「なぜうちに頼んでいるのか」を聞く
- 同じ質問を、ベテランと若手の社員にもしてみる
- 答えを並べて、よく出てくる言葉を拾う
② 価格の根拠を示す

材料やエネルギーが上がるなかで、単価がそのままだと、利益が削られ、人にお金を回す余裕もなくなります。価格交渉を「お願い」ではなく、数字の話にすることが考えられます。
- 主な品目ごとに、材料・エネルギー・人件費の上がり幅を把握する
- 前年との差を、1枚の資料にまとめて取引先に示す
- 赤字の仕事がどれかを、まず社内で確かめる
③ 同じ数字を父子で見る

健太さんと正一さんの言い合いは、見ているものが違うことから生まれています。夕食の席ではなく、時間を決めて、同じ数字を一緒に見る場をつくることが考えられます。
- 月に一度、30分だけ、月次の数字が出たあとに集まる
- 売上・原価・受注を、1枚の紙にまとめる
- 責めずに、「なぜこうなったのか」を一緒に考える
まずは①から
3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。取引先や社員に話を聞く①は、お金をかけずに始められる一歩です。
自社が何で選ばれているかが分かれば、どの仕事を守り、どこに人とお金をかけるかも見えてきます。次回は、健太さんが「なぜ海外品はそんなに安いのか」を調べます。
ハーマスの考え方とご提案

合同会社ハーマスでは、世界の変化への備えを、現場の頑張りだけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どんな強みを磨くかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と後継ぎ、現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。
このテーマでは、たとえば次のようなご提案をしています。
- 取引先や社員への聞き取りで、自社の強みを言葉にする
- 社長と後継ぎが同じ数字を見る場をつくり、その進行を担う
- アンケートで、現場の声を個人が特定されない形で見えるようにする
絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。
この連載では、後継ぎ専務の健太さんと社長の正一さんと一緒に、世界から川口まで、製造業のこれからを全5回で考えていきます。
出典
- 経済産業省「通商白書2025」概要(p.10「各国・地域の製造業付加価値の推移」、1995年から2020年までの伸び、名目ドルベース。原データ:OECD TiVA)
- 経済産業省「通商白書2026」(p.17、第1-1-4-1図「世界の製造業付加価値の推移」。原データ:OECD TiVA)
- 内閣府「2024年度国民経済計算(2020年基準・2008SNA)」フロー編ポイント(p.9「経済活動別GDPの構成比(名目)」、暦年)
- 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2026」第1-6表 経済活動別国内総生産(日本の2024年の製造業の付加価値。原典:内閣府「2024年度国民経済計算」)
- 経済産業省「2025年版ものづくり白書」概要(製造業がGDPに占める割合、事業環境の変化、価格転嫁の実施)
- 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」