HOME > ものづくり人事ラボ > 人材育成・キャリア

ケース06社長:なぜ「任せられる人」が育たないのか

※冒頭のエピソードは、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空の人物・会社の話です。実在の企業や個人をモデルにしたものではありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。

※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。

社長の一日に起きていること

社長のまわりで起きていること:社長にはすべてが集まり、社員は「社長に聞こう」。任せられないから、育たない。育たないから、任せられない
タップで拡大

坂本さん(仮名・58歳)は、従業員50人ほどの金属加工の会社を経営しています。先代から引き継いで十数年、取引先も少しずつ増えてきました。

ただ、最近は一日があっという間に終わります。見積の金額も、急な注文を受けるかどうかも、現場のトラブルへの対応も、最後は坂本さんのところに集まってきます。社員からは、何かあるたびに「社長、ちょっといいですか」と声がかかります。

この先の設備投資や、新しい取引先のことを考える時間は、ほとんど取れていません。坂本さんは、ふと思います。「任せられる人がいない。でも、本当にいないのか、任せてこなかったのか。」

調べてみると:国も「一人経営体制」を課題に挙げている

国も指摘する「一人経営体制」の壁:2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要より。成長を加速させる段階では、経営者にないスキルを持つ補完型人材の確保と、職権分散による一人経営体制の克服が必要とされている
タップで拡大

中小企業庁の「2025年版 中小企業白書」の概要では、企業の成長について次のように述べられています。

「成長の加速段階では、経営者にないスキルを持つ補完型人材の確保や、経営者の職務権限分散による一人経営体制の克服等が重要と考えられ」

社長に判断が集まる状態は、会社が小さいうちは強みにもなります。ただ、仕事が増えてくると、社長が判断できる量そのものが、会社の成長の上限になる可能性があります。

さらに、判断を任せられる経験が少ないと、社員が判断に慣れる機会も減ります。「任せられないから、育たない」「育たないから、任せられない」という循環が生まれやすいと考えられます。

データ:任せられる人材は、7割超の企業で不足

任せられる人材は、7割超の企業で不足:中核人材を「不足」と回答した企業は7割超で、製造業では業務人材との差が10%以上。OFF-JTを実施した事業所は、新入社員対象が58.7%、管理職層対象が49.0%
タップで拡大

「2024年版 中小企業白書」では、人材を「中核人材」と「業務人材」に分けて過不足を尋ねています。中核人材は「事業上の様々な業務において中核を担う人材」「高度な専門性を有する人材」と定義されています。

その結果、中核人材については7割超の企業が「不足」と回答しています。業種別にみると、製造業では中核人材と業務人材の不足感に10%以上の差があり、中核人材の不足感がより大きくなっています。

一方、厚生労働省の「令和7年度 能力開発基本調査」で、正社員にOFF-JT(職場を離れて行う研修)を実施した事業所の割合を職層別にみると、新入社員が58.7%、管理職層が49.0%でした。

任せる立場にある人への研修は、新人向けより少ない傾向がうかがえます。任せられる人は足りず、その人を育てる機会も限られている可能性があります。だからこそ、研修だけに頼らず、日々の仕事のなかで「任せながら育てる」工夫が大切になると考えられます。

で、どうしたらいいのか

任せられる人を育てる3つの手当て:①任せる範囲を決める②判断の理由を話す③失敗を引き受ける。まずは①から
タップで拡大

「任せられる人がいない」という悩みは、社員の力不足だけでなく、何をどこまで任せるのかが、言葉になっていないことにも一因があると考えられます。ものづくり中小企業で打てる手として、次の3つが考えられます。

① 任せる範囲を決める

① 任せる範囲を決める:「適当にやっておいてくれ」ではなく、「10万円までの手配は、相談なしで決めていい」と範囲を示す
タップで拡大

「任せたつもり」でも、範囲があいまいだと、社員は結局社長に確認しに来やすくなります。金額や内容で「ここまでは決めていい」と線を引き、書き出しておくことが考えられます。

  • 金額・内容・期限で、任せる範囲を決める(金額はたとえばの例です)
  • 決めた範囲を紙に書き、本人と周りにも伝える
  • 範囲のなかでは、社長が口を出さないと決める

② 判断の理由を話す

② 判断の理由を話す:見積・受注・人などの場面で、社長がなぜそう決めたかを言葉にして伝える
タップで拡大

社長の判断には、長年の経験からくる「理由」があります。ただ、それが言葉になっていないと、周りからは結果しか見えません。見積や受注、人の配置などの場面で、なぜそう決めたのかを一言添えることが考えられます。

  • 見積や受注の判断を、右腕候補の前で口に出してみる
  • 「いくらなら受けるか」「何を優先するか」を伝える
  • ときどき、先に本人の考えを聞いてから、社長の考えを話す

③ 失敗を引き受ける

③ 失敗を引き受ける:任せた結果がうまくいかなかったとき、「判断は間違っていなかった。次はどうする?」と返す
タップで拡大

任せた結果がうまくいかなかったとき、社長がどう反応するかを、社員はよく見ています。そこで責められると、次からは自分で決めなくなる傾向にあります。任せた以上、結果の責任は社長が持つと伝えることが考えられます。

  • 失敗したときは、まず判断の過程を一緒に振り返る
  • 「次はどうする?」と、本人に考えてもらう
  • 取引先へのお詫びなど、社外への対応は社長が引き受ける

まずは①から

3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。任せる範囲を1つ決めて書き出す①は、比較的手軽に始めやすい一歩です。

右腕は、探して見つかるものではなく、任せながら育っていくものでもあります。社長ひとりの頑張りに頼らない仕組みをつくることが、会社の次の成長につながると考えられます。

ハーマスの考え方とご提案

ハーマスの考え方とご提案:任せられる人がいない悩みは、社員の力だけでなく会社の仕組みで支えられる課題。①任せる範囲と判断基準を社長と言語化②右腕候補とのキャリア面談③任せたあとの振り返りに伴走
タップで拡大

合同会社ハーマスでは、「任せられる人がいない」という悩みを、社員の力だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。何をどこまで任せるかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。

このケースのような場合、たとえば次のようなご提案をしています。

  • 任せる範囲と判断の基準を、社長と一緒に言葉にする
  • 国家資格キャリアコンサルタントとして、右腕候補の方とキャリア面談を行う
  • 任せたあとの振り返りに、第三者として伴走する

絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。

ものづくり人事ラボでは、こうした「よくある悩み」を、年代や立場を変えて取り上げていきます。

出典

関連する記事