ケース08工程・部署:なぜ「あっちのせい」が生まれるのか

※冒頭のエピソードは、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空の人物・会社の話です。実在の企業や個人をモデルにしたものではありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。
※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。
毎週の会議で起きること

森さん(仮名・48歳)は、従業員80人ほどの精密板金の会社で、生産管理の課長を務めています。
毎週の生産会議は、いつも同じ流れになります。切断や曲げを担う前工程のリーダーは「計画どおり出しているのに、後ろが詰まっている」と言います。溶接や組立を担う後工程のリーダーは「寸法のばらつきで手直しが多い。急な変更も伝わってこない」と返します。話し合いは、いつの間にか「どちらのせいか」になってしまいます。
森さんは、間に立って調整を続けています。森さんは、ふと思います。「どっちの言い分もわかる。でも、なんで同じ会社なのに、こんなにかみ合わないんだろう。」
調べてみると:ストレスの上位は「量」と「責任」

厚生労働省の調査で、仕事や職業生活に関する強いストレスの内容(主なもの3つ以内)をみると、「仕事の量」が43.2%で最も多く、「仕事の失敗、責任の発生等」が36.2%で続きます。「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」は26.1%でした。
工程や部署のあいだの対立も、表面上は「人と人とのぶつかり合い」に見えます。ただ、その中身をみると、「仕事の量」と「失敗の責任」をどちらが引き受けるか、という押し合いになっている場合が多いと考えられます。
前工程は、自分の工程の計画を守ることを求められています。後工程は、自分の工程の品質と納期を守ることを求められています。それぞれが自分の役割に真面目であるほど、境目では衝突が起きやすくなる可能性があります。
データ:相談相手として、上司の存在は大きい

同じ調査で、ストレスを相談できる人がいる労働者は94.6%でした。相談できる人としては「家族・友人」が68.6%、「上司」が65.7%です。
実際に相談したことがある人の相談相手でも、「上司」が58.9%と、家族・友人(62.1%)に次いで多くなっています。
現場の困りごとが、まず上司に集まることがうかがえます。工程や部署のリーダーどうしがつながっていれば、困りごとが「あっちのせい」になる前に、部署をまたいで解決できる可能性があります。
で、どうしたらいいのか

工程や部署のあいだの溝は、リーダー同士の相性だけでなく、それぞれが別々の目標を追いかけていることにも一因があると考えられます。ものづくり中小企業で打てる手として、次の3つが考えられます。
① 共通の数字を持つ

前工程は自分の工程の出来高を、後工程は自分の工程の品質を見ていると、同じ出来事でも評価が食い違いやすくなります。工場全体で追いかける数字を1つ決めて、全員で見ることが考えられます。
- 「納期に間に合った件数」など、どの工程も関わる数字を選ぶ
- 掲示板や朝礼で、毎週その数字を共有する
- 数字が悪かった週は、工程ごとではなく全体の課題として話し合う
② 境目で話す場をつくる

衝突が起きやすいのは、工程と工程の「境目」です。境目を担う前後の工程のリーダーが、短い時間でも定期的に顔を合わせることで、困りごとが大きくなる前に共有できる可能性があります。
- 週に一度、15分だけ、生産計画が決まったあとに集まる
- 「誰のせいか」ではなく、起きた事実だけを持ち寄る
- 次の1週間で変えることを、1つだけ決める
③ 人を入れ替えてみる

相手の工程の仕事を実際に見たり手伝ったりすると、「なぜそうなるのか」がわかり、言い方が変わる傾向にあります。無理のない範囲で、人の行き来をつくることが考えられます。
- 繁忙のときに、隣の工程を手伝ってみる
- 月に一度、後工程の作業を見に行く
- 新人のうちに、複数の工程を経験しておく
まずは①から
3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。共通の数字を1つ決める①は、比較的手軽に始めやすい一歩です。
工程のあいだの溝は、どちらかが悪いから生まれるとは限りません。それぞれが自分の役割に真面目であることを認めたうえで、会社全体で同じ方向を向ける仕組みをつくることが大切だと考えられます。
ハーマスの考え方とご提案

合同会社ハーマスでは、工程・部署のあいだの溝を、リーダー同士の相性だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どんな数字や話し合いの形が合うかは、会社の規模や工程の組み方によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。
このケースのような場合、たとえば次のようなご提案をしています。
- アンケートで、部署ごとの困りごとを、個人が特定されない形で見えるようにする
- 工場全体で共有する数字を、社長と一緒に決める
- 部署をまたいだ話し合いに、第三者の進行役として入る
絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。
ものづくり人事ラボでは、こうした「よくある悩み」を、年代や立場を変えて取り上げていきます。
出典
- 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」結果の概況(第17表・第18表・第19表)
- 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
※ストレスの内容は「主なもの3つ以内」の複数回答です。調査年によって設問の形式が異なる場合があるため、本記事では令和6年の数値のみを用いています。