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後継ぎ専務と読む製造業のこれから②なぜそんなに安いのか?台頭する国のコスト構造

※この連載は、川口の金属加工会社を継ぐ予定の専務・宮田健太さんと、社長で父の正一さんを軸に、世界から地域まで製造業のこれからを全5回で考えるものです。登場人物と会社は、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空のもので、実在の企業や個人とは関係ありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。

※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。

夜の事務所で

数字と義理、どちらも会社を支えてきた:専務・健太は「この仕事、赤字だよ」、社長・正一は「先代からの付き合いだ」。どちらの言い分も、会社を守ろうとしている
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前回の取引先から、見積もりの結果が届きました。「海外の品物より、3割ほど高いですね」。

その夜、健太さんは事務所に残り、その品番の原価を計算し直しました。材料費、加工時間、段取り替え。積み上げていくと、ここ数年はほとんど利益が出ていないことが分かりました。

帰りがけに、工場を見回っていた父に声をかけます。

「親父、この仕事、正直赤字だよ」

「先代からの付き合いだ。うちが苦しいときに仕事をくれた義理もある。お前の代で切るのか」

「切るとは言ってない。でも、なんで向こうはそんなに安いんだよ」

「向こうは資源もあるし、人も安い。同じ土俵じゃないんだ」

健太さんは父の言葉を反芻します。「本当にそうなのか。何がどれだけ違うのか、一度ちゃんと調べてみよう。」

調べてみると:規模も人件費も、差は大きい

規模がまるで違う:粗鋼の生産量(2024年、百万トン)は中国1,005.1、インド149.4、日本84.0、ベトナム22.0、タイ4.9。中国は日本の約12倍
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まず規模です。金属加工の材料となる鉄の生産量を、世界鉄鋼協会の資料で比べます。2024年の粗鋼の生産量は、中国が10億トンを超え、日本の約12倍です。世界全体の約53%を、中国1か国でつくっていることになります。インドも日本を上回り、2位です。

つくる量が多いほど、1個あたりの設備費や固定費は下がります。いわゆる規模の経済です。

人件費の差も大きい:製造業の作業員の月額基本給(2023年度、米ドル、中央値)は中国510、タイ371、インド294、ベトナム251
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次に人件費です。JETROの日系企業への調査では、製造業の作業員の月額基本給(2023年度、中央値)は、中国が510ドル、タイが371ドル、インドが294ドル、ベトナムが251ドルでした。

この調査には同じ定義の日本の数字がないため、そのままは比べられません。参考までに、厚生労働省の調査では、日本の製造業の一般労働者の月々の賃金(所定内給与、事務職なども含む)は31.86万円です。定義が違うことを前提にしても、人件費に大きな差があることはうかがえます。

データ:資源は「自国で取れる」わけではない

資源は「自国で取れる」わけではない:中国の鉄鉱石の自給率は約2割(生産3.0億トン÷消費15.1億トン、2024年)。世界の鉄鉱石輸入に占める中国は約7割。日本は国内生産ゼロでほぼ全量を輸入
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正一さんは「向こうは資源もある」と言いました。鉄の原料となる鉄鉱石で確かめてみます。

世界鉄鋼協会の資料では、2024年に中国は鉄鉱石を3.0億トン生産した一方で、12.4億トンを輸入しています。使う量に対する自国の生産は約2割で、中国も鉄鉱石の大半を輸入に頼っています。世界の鉄鉱石の輸入のうち、約7割を中国が占めています。日本は国内生産がなく、ほぼ全量を輸入しています。

つまり、「資源が自国で取れるから安い」とは言い切れません。むしろ、世界中から大量に買い、大量につくることが、安さにつながっていると考えられます。正一さんの「同じ土俵じゃない」という感覚は当たっていますが、その理由は資源よりも規模と人件費にありそうです。

日本が輸入する金属製品の半分以上は中国から:日本の輸入額に占める中国の割合(2024年)は金属製品56.7%、鉄鋼21.3%、非鉄金属11.1%
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その結果は、日本の輸入にも表れています。財務省の貿易統計では、2024年に日本が輸入した金属製品は1.63兆円。そのうち0.93兆円、約57%が中国からです。

で、どうしたらいいのか

後継ぎ専務がまず打てる3つの手:①赤字の仕事を確かめる②勝てる仕事を言葉にする③人を勝てる仕事に寄せる。まずは①から
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規模と人件費で戦う相手に、同じやり方で価格を合わせるのは難しいと考えられます。大切なのは、量と値段で競わない仕事を見極め、そこに人と技能を寄せていくことです。次の3つが考えられます。

① 赤字の仕事を確かめる

① 赤字の仕事を確かめる:「会社全体ではなんとか回っている」ではなく、「この品番は1個つくるたびに赤字」と材料・加工時間・段取りを品目ごとに積み上げる
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会社全体では回っていても、品目ごとに見ると赤字の仕事が混ざっていることがあります。どこで負けているかを、まず数字で確かめることが考えられます。

  • 主な品番ごとに、材料・加工時間・段取りの時間を積み上げる
  • 売値と比べて、利益が出ている仕事と出ていない仕事を分ける
  • 赤字の仕事は、すぐに切るのではなく、値上げの交渉材料にする

② 勝てる仕事を言葉にする

② 勝てる仕事を言葉にする:短納期(近くにいるからすぐに届けられる)、小ロット(大量生産では割に合わない仕事)、難加工(職人の腕がものをいう仕事)
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大量につくるほど安くなる仕組みは、裏返せば、少量や急ぎの仕事は苦手だということでもあります。海外の工場にはできない仕事を、自社の言葉で整理することが考えられます。

  • 短納期:近くにいるから、明日届けられる
  • 小ロット:1個からでも引き受けられる
  • 難加工:精度や材質で、職人の腕がものをいう

③ 人を勝てる仕事に寄せる

③ 人を勝てる仕事に寄せる:誰が何をできるかの技能の一覧を1枚にする、腕のある人を勝てる仕事に配置する、若手にその技能を教える
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勝てる仕事を支えるのは、結局は人の腕です。誰がどの技能を持っているかを見える形にし、配置と育成の順番を見直すことが考えられます。

  • 社員ごとに、できる加工や段取りを一覧にする
  • 勝てる仕事に、腕のある人を優先して配置する
  • その技能を、若手に引き継ぐ順番を決める

まずは①から

3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。まずは①で、どの仕事で負けているのかを数字で確かめることが、次の手を決める出発点になります。

海外と同じ土俵で戦わないためには、自分たちの土俵を言葉にする必要があります。次回は、日本を代表する大手5社が、人材にどう動いているかを見ていきます。

ハーマスの考え方とご提案

ハーマスの考え方とご提案:価格で負けない土俵づくりは、現場の腕だけでなく会社の仕組みで支えられる課題。①社員への聞き取りで技能の一覧を見える形にする②勝てる仕事に人を寄せる配置と育成の順番を一緒に考える③若手への技能の引き継ぎを現場に入って支える
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合同会社ハーマスでは、価格で負けない土俵づくりを、現場の腕だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どの仕事で勝負するかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と後継ぎ、現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。

このテーマでは、たとえば次のようなご提案をしています。

  • 社員への聞き取りで、技能の一覧を見える形にする
  • 勝てる仕事に人を寄せる、配置と育成の順番を一緒に考える
  • 若手への技能の引き継ぎを、現場に入って支える

絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。

この連載では、後継ぎ専務の健太さんと社長の正一さんと一緒に、世界から川口まで、製造業のこれからを全5回で考えていきます。

出典

※中国の割合や自給率、日本の輸入に占める中国の割合は、各資料の数値から計算しました。

この記事のタグ

#後継者#世界の製造業

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