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後継ぎ専務と読む製造業のこれから③大手の給料に勝てない?大手5社は人材にどう動いているか

※この連載は、川口の金属加工会社を継ぐ予定の専務・宮田健太さんと、社長で父の正一さんを軸に、世界から地域まで製造業のこれからを全5回で考えるものです。登場人物と会社は、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空のもので、実在の企業や個人とは関係ありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。

※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。

若手の「ちょっと相談が」

人を守りたい気持ちは、同じ:専務・健太は「給料を上げないと辞める」、社長・正一は「どこにそんな金がある」。どちらも、会社と人を守ろうとしている
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春の賃上げのニュースが続いた翌週。入社3年目の工藤さん(仮名)が、終業後に健太さんを呼び止めました。

「専務、ちょっと相談があって。高校の同級生が大手の工場にいて、うちに来ないかって言われてるんです」

その夜、健太さんは父に話しました。

「親父、給料を上げないと、若いのはみんな辞めるよ」

「材料も電気代も上がってるのに、どこにそんな金がある。俺の若い頃は、給料より腕を磨いたもんだ」

「その話、今の若い子には通じないんだって」

台所で聞いていた母が、帳簿を閉じながらつぶやきます。「大手と同じだけ出せたら、苦労しないわよ」

健太さんは思います。「大手と同じ給料は無理だ。じゃあ、うちは何で勝負すればいいんだ。」

調べてみると:大手は、初任給から人を取りにきている

大手は、初任給から人を取りにきている:パナソニック・日立は2026年に大卒初任給を各約1.8万円引き上げて28.7万円。日立の平均賃上げは6.5%。スズキは2024年に大卒初任給を22.0万円から25.1万円へ(14.1%引き上げ)
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健太さんが気になった「大手の給料」を、各社の公開資料で確かめてみます。

パナソニックと日立は、2026年の春季交渉で、大卒の初任給をそれぞれ18,000円引き上げ、287,000円としています。日立は平均で月23,690円(6.5%)の賃上げを回答しています。

スズキは2024年4月に、大卒の初任給を220,000円から251,000円へ、14.1%引き上げています。

若手から見ると、給料を比べる相手は、近所の同業者だけではなく大手になっています。健太さんの焦りには、理由がありそうです。

データ:大手の変化は、取引先の値決めにも及んでいる

大手の人事は「役割」と「学び直し」へ:日立は非管理職約2万人の処遇を職務ベースに、ソニーは2015年から役割で格付け。パナソニックはAI教育を6,400人に、日立のデジタル人財は約10.7万人。トヨタは労務費の上昇分を価格に反映、スズキは年1回以上価格を協議
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大手が変えているのは、給料の額だけではありません。

役割で決める:日立は職務にもとづく人事への転換を進め、2024年6月に非管理職約2万人の処遇制度を職務ベースに改めました。ソニーは2015年から、「人」ではなく「現在の役割」で格付けする制度を運用しています。パナソニックも、2025年4月から役割やスキルに応じて入社時の給与を個別に決めています。

学び直す:パナソニックは2025年度に、AI教育をグループ53社・6,400人に広げました。日立のデジタル人財は、2024年度に107,000人です。

取引先へ:トヨタは仕入先との価格改定で、「2次以降の仕入先も含め」労務費の上昇分を価格に反映するとしています。スズキはパートナーシップ構築宣言を改め、価格の協議を年1回以上行い、労務費は「適切に価格に転嫁する」と明記しています。

価格転嫁は進んだが、労務費はまだ半分:コストが上がった分のうち価格に反映できた割合は、原材料費55.7%、全体54.2%、労務費50.0%、エネルギー費48.9%(2026年3月時点)
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では、中小企業は実際にどれくらい価格に乗せられているのでしょうか。経済産業省の「価格交渉促進月間」の調査(2026年3月時点、回答69,625社)では、価格交渉が行われた割合は90.7%でした。ただし、コストが上がった分のうち価格に反映できた割合は全体で54.2%で、労務費は50.0%にとどまっています。

大手の賃上げは、中小企業にとって人の取り合いを強めます。一方で、大手自身が取引先の労務費を価格に反映すると公表していることは、価格交渉の追い風にもなりうると考えられます。正一さんの「どこにそんな金がある」に対する答えの一つが、ここにありそうです。

で、どうしたらいいのか

後継ぎ専務がまず打てる3つの手:①給料の見通しを示す②労務費を価格に乗せる③ここで働く理由を言う。まずは②から
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大手と同じ給料を出すことは、多くの中小企業にとって難しいと考えられます。大切なのは、額で競うだけでなく、「上げる原資」と「ここで働く理由」を一緒につくることです。次の3つが考えられます。

① 給料の見通しを示す

① 給料の見通しを示す:「頑張っていればそのうち上がる」ではなく、「この加工を一人でできたら、この給与」と技能の段階と給与の幅を1枚にまとめる
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大手が「役割」や「スキル」で給与を決めはじめているように、何ができればいくらになるのかが見えると、若手は先を描きやすくなると考えられます。

  • 技能を3〜4段階に分け、それぞれの給与の幅を決める
  • 1枚の紙にまとめ、入社時や面談で若手に見せる
  • 段階が上がったら、約束どおり給与も上げる

② 労務費を価格に乗せる

② 労務費を価格に乗せる:国の労務費指針を根拠に、年に一度決まった時期に、取引先のパートナーシップ構築宣言も確かめて協議する
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賃上げの原資がなければ、正一さんの心配どおり、上げた給料は続きません。大手自身が労務費の転嫁を受け入れると公表している今は、交渉を始めやすい時期とも言えます。

  • 国の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に目を通す
  • 取引先がパートナーシップ構築宣言を出しているかを確かめる
  • 最低賃金や賃上げの動向を根拠に、年に一度協議を申し入れる

③ ここで働く理由を言う

③ ここで働く理由を言う:早くから段取りを任せてもらえる、どこでも通用する腕と資格が身につく、社長との距離が近く意見がすぐに届く
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大手にはない中小企業ならではの良さも、言葉にしなければ若手には伝わりません。

  • 若手本人に「ここで働いていてよかったこと」を聞いてみる
  • 求人票や面談で、任される範囲や身につく技能を具体的に伝える
  • 資格や外部研修の費用を会社が持つなど、形で示す

まずは②から

3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。ただし、上げる原資がなければ①も③も続きません。まずは②で、労務費を価格に乗せる準備から始めるのがよいと考えられます。

給料の額で大手に追いつくのは難しくても、「上げ続けられる会社」になることはできます。次回は、視点を川口に移し、健太さんの会社の足元で起きている変化を見ていきます。

ハーマスの考え方とご提案

ハーマスの考え方とご提案:若手の引き止めは、給料の額だけでなく会社の仕組みで支えられる課題。①技能の段階と給与の見通しを1枚にする②若手との面談で辞めたい理由と残る理由を聞く③賃上げの原資と時期を整理する
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合同会社ハーマスでは、若手の引き止めを、給料の額だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どんな給与の決め方が合うかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と後継ぎ、現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。

このテーマでは、たとえば次のようなご提案をしています。

  • 技能の段階と給与の見通しを、社長と一緒に1枚にまとめる
  • 国家資格キャリアコンサルタントとして若手と面談し、辞めたい理由と残る理由を聞く
  • 賃上げの原資と時期を、社長と一緒に整理する

絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。

この連載では、後継ぎ専務の健太さんと社長の正一さんと一緒に、世界から川口まで、製造業のこれからを全5回で考えていきます。

出典

※各社の取り組みは、公開資料で確認できたものに限って紹介しています。各社の取り組みの良し悪しを評価するものではありません。

この記事のタグ

#後継者#賃金

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